今年一番の衝撃的な出来事と言えば日本マクドナルド社の財務部マネージャーによる7億円横領事件でした。
驚いた理由は下記の通りで、まさかあのマクドナルドでという感じでしたね。
①上場会社で米国親会社でも相当規模のマクドナルドで発生したこと
②財務部という資金を扱う部署で発生したこと
③手口が小切手による預金引き出しであり、いまだに小切手を使っていたこと
これが一番印象に残っているのは自分もかつて財務のマネージャーをしていたため他人事とは思えないもので。
この事件に対し「チェック体制が甘いのではないか?」という批判がありますが、横領した容疑者の肩書が総括マネージャーというのを考えると実質的な現場責任者だったのではないかと推測します。
その上席の部長なりディレクターが日々締切があり決して遅らせることはできない処理の一つ一つを管理しているのは現実的ではなく(彼らも会社のマネジメントの仕事を行っておりそちらの方が重要度&専門性が高い)、実質的にはマネージャーが承認権限や印鑑・小切手の管理を行っていたものと思われます。
となると管理し不正を防止すべき者が不正を行ったという内部統制の限界であり、これをもって会社が全て悪いということはいえずジレンマを抱えてしまうことになります。報道から個人的に気になって点をいくつか挙げてみます。
不正を始めたのが1月からである
日本マクドナルド社の決算は12月であり、もし12月中におこなっていたら会計監査で発見された可能性があります。
決算期末直前に小切手の使用があればカイティングという典型的な小切手を使った不正を疑いますので、その手続の対象となることは間違いないでしょう。
意図的かどうかはわかりませんが、マネージャーとなればその知識は有していてもおかしくありません。
小切手を使った手口
もし小切手でなければこれほど頻繁に引出は出来なかった可能性があると思います。
まず、マネージャー職のように上席者にはネットバンキング上承認権限しかなく振込データが作れないのが普通でありスタッフの誰かに容疑者自身の口座への振込データを入力をしてもらう必要があります。
支払の場合には請求書・それに対する上席者の承認が必須(数千万となると役員レベル以上の承認なのが普通)のため、それを準備するのは不可能でしょう。
また、キャッシュカードで引き出したとしても銀行取引記録に現金引出の記録が残り、ほとんど会社で小口現金を持たないまたは最小化していますので現金を引き出す理由を考えるのは困難かと思います。
ただ、小切手の場合は①小切手帳と印鑑があれば引き出せること及び②取引記録には小切手番号しか残らず立場上小切手帳や印鑑は自分で管理下にあったと思いますので自由に使えたと思われます。
それより、いまだに小切手を使っていたのが驚きです。自分も監査や経理部勤務においてほとんど小切手を見たことがありません。今は振込のため使う必要がなく、マクドナルド社の資金は潤沢ですので資金繰り用に使っていたとも思えませんし。当座口座を開設した際に念のために作っておくこともありますので、それが悪用されたのかもしれません。
どのように不正を隠ぺいしていたか
上場会社の日本マクドナルド社では月次で①帳簿上の現預金と②実際の預金残高証明書と照合し一致していることを確認していたはずです。となると①帳簿上の残高又は②実際の預金残高証明書のどちらかをごまかしていたはずと思います。
通常、この一致の確認はスタッフの仕事のため、②の預金残高証明書をごまかすのは無理があると考えると、①帳簿上の残高をごまかしていたか上記のカイティングを行っていたのどちらかかと思いますが、①帳簿上の残高の不正の方が仕訳をきるだけなので、容易かと。経理知識が浅い派遣社員やスタッフに指示して起票させ自分で承認してしまえばよいだけですし。(財務部が完全に資金管理だけ行っている体制の会社よりも、通常資金の入出金については財務部が仕訳処理・資金以外の税金等の仕訳は経理部と分けている会社のが多いと思います。)
現預金残高からすると7億円なら月次であり得る変動と思います。相手勘定としてはビジネス上売上原価は相当厳しく管理しているはずと思われるため外すとして、普通なら経費にいれるところですが外資系はFP&Aによる部署別予実管理も相当細かくしているところも多いのでBS勘定(固定資産計上・買掛金/未払金の減額)を使っていたかもしれません。
責任問題は?
・監査法人:不正開始が2018年12月決算以後であり6億円も重要性があるものではないため、当期の決算で検討すればよく原則問題ないかと。
・内部統制チーム:米国親会社がSEC上場会社でありUS-SOXの対象のため、①US-SOXの内部統制チームと②J-SOXの内部統制チームが混在している可能性があります。
個人的経験では、外国においては内部統制は非常に重要視されており上席者の内部統制に対する意識(違反したときの罰則等)が日本とは雲泥の差という気がします。また、資金を管理する立場である部署で発生した不正ですので、金額的重要性よりも質的重要性から絶対にあってはならない不正だと思います。なのでPLでは重要性低くくてもそれをもって仕方なかったということはできないのかなと。ただ、小切手振り出しのプロセスはそれほどあるとは思えず重要性から検証対象外としていた可能性もあり、そこの責任関係はどうなのか興味深いところです。
・人材紹介会社:外資系のマネージャー職なので給与も高く人材紹介会社も手数料を相当とっているはずなのでそこの関係はどうなのかと。紹介したエージェントは出禁でしょうかね(笑)
・レファレンス先:採用時にレファレンスを提出している可能性があります。レファレンスは外資系でよくある手続きで過去の上司や同僚から採用予定者の評価を書いてもらうことです。身元保証人のような法的な責任はないと思いますが、良かれと思ってレファレンスを書いてくれた人にも迷惑ですよね。
・バックグランドチェック会社:外資系管理職であれば、採用条件の一つにバックグランドチェックが行われます。もちろん過去に法令違反を犯したことがない等の自主宣誓(サイン)もありますが、そのような外部によるチェックが行われることに同意したうえでそれに問題なければ採用というのが多いと思います。報道では自己破産申請が認められなかったということで調査に限界があったのかもしれません。
どうしたら防止又は発見できたか?
①小切手を使わない:小切手は紙切れ一枚で手書きで幾らでも金額を操作できてしまいます。またネットバンキングによる銀行振込のようにシステム的に完全に上席者の不正を防止することは不可能です。
②ブロックリーブを採用する:資金を扱う者は金融機関のように強制的に2週間連続で休暇を取らせる。できれば月末・月初にかけて取得させると効果的。
③残業させない:今回の発見は容疑者が残業して小切手を作成していたのを同僚が不審に思って上司に進言したことによると報道されています。容疑者も勤務時間中に自分で小切手作成することは周囲の目があり無理だったと思います。自分も金融機関勤務時代に仕事を覚えようと休日出勤して作業していたところ上司に「不正していると疑われるから止めなさい」と言われた記憶があります。働き方改革も単に残業代減らすという目的ではなく、このように不正を防止するためという積極的な目的となるといいですね。
きっと現場では容疑者が関与した全ての取引について不正の有無を確認するのに忙殺されたと推測しますが、あらためて不正は全員を不幸にするもので決してしてはならないと考えた次第です。
